見えぬ気配

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 背中に、何か酷く冷たい物が貼りつくような不快感を覚えたのだが……なんだと言うのだ? 「クソっ……気持ち悪いな」  真夏のむせ返る熱帯夜。  仕事のために着込んだ茶色いスーツの中は、もう汗だくだ。  鬱陶しい上着は既に脱いで小脇に抱えている。  緩めたネクタイとワイシャツの襟。  その程度では排出しきれない皮膚を覆う熱量。  さっさと帰って、シャワーを浴びよう。  俺はアパートの階段を登り、二階の奥にある自分の部屋の扉を開けた。 ……入る前に、もう一度周囲を見回す。  辺りには暗闇が横たわるばかりで、人の気配は無い。  素早く中に入り、扉の鍵を占めて、そこでようやく一息つく。  熱気でサウナ状態の居間にスーツを脱いで投げ入れ、エアコンと換気扇を回してからすぐにシャワーを浴びた。  汗を洗い流したあとは、シャツとパンツだけで小さな床置きのソファに陣取る。  勿論、冷蔵庫で冷やしておいたビニール袋を持ってくるのも忘れない。  リモコンでテレビをつけて、買ってきたビールを開ける。  バラエティの雑音と、缶から炭酸の抜ける小気味良い音が重なった。  しばしの寛ぎ。  この瞬間だけが、いまの俺の癒やし。 …………う、……ん?  変な音がした。  何かを叩きつけるような……。  つけっぱなしのテレビの音、だろうか。     
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