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見えぬ気配
暗闇に覆われた路地を一人、歩く。
駅前の賑わいからはほど遠い閑静な住宅街で、頼りになりそうな物は街灯の明かりだけ。
コンクリートの舗装とその脇を固める塀が、道を無機質な冷たいものに変えている。
暗闇。
乏しい光源。
明かりの届かない横道は深い闇に覆われていて、それこそ一寸先の輪郭さえ分からない。
光は闇を照らすとともに、闇を深めていた。
そんな一人きりの、寂しい帰路。
「――ん?」
不意に、背後から視線を感じて振り向くも――
「気のせいか……」
誰もいない。
街灯の下で、蛾が踊っているだけ。
足音も無いのだし、当然か。
「今日はやけに……冷えるな」
一瞬横切った風が、酷く冷たくて。
わざと独り言を漏らし、気を紛らわせる。
手に持ったコンビニのビニール袋が、擦れて音を立てた。
早く帰って、こいつを開けよう。
自分の家に近づくにつれて、街灯が減っていく。
暗闇でもようやく目が慣れてきて、歩く程度なら支障はない。
月も星も雲で覆われて暗い夜だが、歩き慣れた道なの――
「――ッ!?」
思わず息を飲んで振り返った。
けれど、誰もいない……。
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