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ひらひら
ひらひら
ひらひら
風に何かが舞っている。そう気がついたのは夜も間近に迫った頃であった。
早出の仕事を終え、のんびりと散歩がてら家路についた私は、普段あまり行かない道をだらだらと歩いていた。
〈明日は休みだもの。急いで帰る必要もないし、家に帰ったって待ってる人もいないし……ああ、考えてたら、何か淋しい気分になってきた〉
自分の考えに凹んだ気分を上げるために、私は遠方にある赤みを帯びた山を見つめた。
橙と赤が入り交じり、燃えるように山が染まる。
空は藍を増し、山は次第に熾人のような輝きを見せ始める。
夕暮れの刹那的な瞬間が私はとても好きだった。
景色がゆっくりと闇に沈む。山もすぐに陰るだろう。夜も近く暗くなる中、目の端に白いものが過った気がした。
ひらひら
ひらひら
白いものが舞っている。
横に流れ大きくゆったりと波打つ。
そう、まるで蛇が身をくねらせるように……
私はこう思った。
〈一反木綿?〉
最近見たテレビ番組に出ていた、空に浮かぶ不思議な物体。コメンテーターやナレーターが一反木綿と言っていた、その姿に何処となく似ているように思えたのだ。
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