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岩崎さんは、お子さんの通う小学校で、バスケットボールクラブのコーチをしている。肝っ玉母さんといった風貌には似合わず、怖がりらしく、この話をしてくれたときはいくらか青ざめていた。
バスケクラブに限らず、体育館を使うクラブ活動で噂になった怪談話があった。
夕方四時四十四分に体育館にいると、二階の観客席をぐるぐる走り回る子どもの足音がする。その子は昔、居残り練習を命じられ、誤って体育館に閉じ込められて死んだのだと言う。
四から死の連想をした程度のたわいもない噂話だ。小学生にとって、四時四十四分の学校は未知の世界だ。そこに何かを期待するのも、わからなくはない。
岩崎さんはそう笑っていたのだが、あるとき、クラブ活動の指導のあとで、忘れものに気づき、顧問の先生と連れだって夕方の体育館に立ち入った。
忘れものはすぐ見つかり、戻ろうとした矢先、体育館じゅうに軽い足音が響き渡った。どう考えても、子どもの足音だった。
「だれかいるのか! 早く下校しなさい!」
先生は叫んだが、足音は止まない。
ふたりで見てまわるも人影はなく、足音も途切れることなく続いている。口には出さなかったが、岩崎さんにはその足音がぐるぐると二階の観客席を走り回っているように思えてならなかった。
先生はしびれを切らし、体育館の入り口に向かうと、扉を半分閉めた。そうして怒鳴った。
「鍵を閉めるぞ、早く出てこい!」
もちろんハッタリだった。だが、次の瞬間。
ドダダダダダダ!
ものすごい足音が近づいてきて、体育館を飛び出し、岩崎さんと先生のあいだを走り抜けていった。
足音だけが。
先生は何事もなかったかのように扉を閉めると、岩崎さんに帰宅を促した。
それからというもの、コーチをしているあいだも二階が気になってしかたがないのだと、岩崎さんは嘆いていた。
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