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岳がウチを出て行ってから一週間、家とギャラリーを往復するだけで、あとは佐藤ばあが家の手入れに来てくれる時に一緒にお料理を作るくらいで、ぼーっと過ごした。
岳と別れたということは、頭ではわかっていても、実感として迫って来ない。
佐々倉と話をする気にもならなくて、ずるずると毎日を過ごしている。
岳が恋しい……
私は、例のスクラップブックを取り出した。
メモを読んでいると、再会してからのいろんなやり取りを思い出した。
会えるのを楽しみにしてたのに、急に都合が合わなくてガッカリしたこととか、岳がやきもちをやいてたこととか、髪の毛をかきあげてくれたこととか……、
思い出せばきりがない。
私は岳と一緒にいる時の、楽しい感じとか屈託なく笑える雰囲気とかが大好きで、少しはけんかしたこともあったはずなんだけど、メモを見ていると、岳の笑い顔と笑い声しか思い出せなかった。
不思議な夢のようなひとときだった。
もうあの日々が戻って来ないなんて信じられなかった。
岳が売れてなかった時も、別れる前の夜も、岳と私は、濃密で朗らかな時間を共有することが出来て、その日々はキラキラしたダイヤモンドのように輝いている。
私は、最後のメモに目を落とした。
必ず幸せになって下さい
私はそのメモをじっと見つめて、それからスクラップブックをぱたんと閉じた。
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