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「今日はしてやられたよ、直樹。
オレはアイツらにどんな詫びを用意すればいいんだ、全く」
佐々倉の父は、電話の向こうで盛大にぼやいていた。
佐々倉は涼しい顔をして父に言った。
「経産省の皆様には、燃料電池車はおそらく頓挫するとさりげなくお伝えください。」
「どういうことだ?」
「あんな金食い車で儲けを出すのは100年早い、ってことですよ。
原油価格も下がってきてるし、戸川としては手を引きたいのが本音ですよ」
「その話、確かなのか?」
「どうもエステールアドラーが開発した新技術の実用化が実現しそうなんですよ。そしたら、燃料電池なんて話にならなくなると思います」
佐々倉の父は納得したようで、それ以上ぼやくことはなかった。
一週間後、急な人事異動が発表された。
田中副社長が、系列の販売子会社の常務になり、後任に佐々倉新副社長が誕生した。
戸川史上、最年少常務取締役副社長の誕生だった。
当面、佐々倉は、国内業務部長も兼任だ。
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