万里花の決意

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食事をする店は私が指定した。 ゆったりとした店構えの、落ち着いた、それでいて適当なざわめきがあるところが望ましい……。 結局私は、高層ビルのなかにある、フレンチにした。 イタリアンじゃカジュアルすぎるし、和食じゃ親密すぎる気がする。 中華じゃデリカシーが感じられないし、かと言って料亭みたいなところは堅すぎる。 そもそも個室は、沈黙が訪れた時のことを考えると恐ろしかった。 店内は照明が落としてあって周りの席がほの暗い空間の中に沈んでいくような錯覚を覚える。 大きな窓からはまばゆいほどの光で埋め尽くされた東京の夜景が浮かびあがってきてとても幻想的だ。 足元にはカーペットが敷いてあるので、都合の悪い言葉が飛び出しても、相手の耳に届く前にカーペットが吸い取ってくれるのではないだろうか……。 ワインを片手にテーブルの上にある、頼りなく光るろうそく越しに相手の顔を見ていれば、自然と心の内がさらけ出てしまう心地がした。 私は約束の時間より遥かに早く着いていた。 「戸川のマリカ様」だって、場合に応じてゆっくり人を待つことが出来るのだ。 本音を言えば、息を整えて、ワインを一杯二杯飲んで、リラックスしてから佐々倉に向き合いたかっただけだ。 しかし、バッグの中に入っている離婚届のことを考えると、どれだけ早く来ていてもリラックスして彼を待つ事はできそうにもなかった。
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