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だけど、もし……、佐々倉がいなくなったら、確実にパンテェールノワールは作られないだろう。
それに、佐々倉の人脈の喪失はやっぱり戸川にとっては小さくはない。
今回のことで、佐々倉の社内での地位はかなり安定するはずだ。
もし、佐々倉が離婚することなく、社内に残れば、父の後継者として皆に認識されるはずだ。
きっと父が望んでいたような、『戸川』が受け継がれて行くだろう……
また、父の言葉が頭をよぎった。
「ま、直樹くんに任せておけば、『戸川』も『万里花』も間違いないだろう」
あれは、呪いの言葉だ……
父は死んでまでなお、『戸川』のことだけを考え続けているのかもしれなかった。
私は、父の『戸川』に対する愛情、いや、執念の前に茫然と従うしかなかった。
……違う、多分、これは私自身の執念だ。
私の血の中にも、戸川に対する執念が脈々と受け継がれている。
私は、太い太いため息をついて、テーブルの上においてあった茶色い封筒を取り上げるとびりびりに破いた。
佐々倉は、わかっていた、というようにかすかに頷き、驚く様子は全く見られなかった。
レストランを後にするとき、佐々倉が言った。
「ケリがついたら、連絡をくれ。
……急がなくていいから、納得して結論を出して欲しい」
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