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のろのろと立ち上がって、隣りに行く。
佐々倉が一人、テーブルで新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。
私は、コーヒーメーカーから自分の分のコーヒーを注いで、佐々倉の前に座った。
「いつ、こっちに越して来るの?」
「今すぐにでも」
「でも、そのコーヒーメーカーは処分してきてちょうだいね。ウチにあるエスプレッソマシーンの方が遥かに美味しいコーヒーが淹れられるから」
直樹は立ち上がって、私の手を取った。
無言で私をベッドまで運び、荒っぽく私を押し倒した。
それから、私を強く抱きしめて、身体中に吸い寄せるようなねばりこいキスを浴びせてきた。
意外なことに嫌悪感はなく、淡々と佐々倉を受け止める自分がいた。
それでも、私の身体は全然熱くならなかったし、直樹が激しくすればするほど、むしろ身体の芯がすうっと冷めていくような気がした。
突然、直樹がふうっとため息をついて、私の身体から離れると仰向けにひっくり返った。しらけた空気が私たちを包む。
「……」
「……」
私たちにはわかっていた。お互いの考えていることが。
「今、しおりさんのこと、考えてたでしょ」
「……ごめん」
「ううん、だって、私も岳のことが頭から離れなかったから」
私は、直樹と目を合わせないように天井に向かって言葉を吐いた。
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