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「……だよな!?」
直樹は、意外なほど、明るく陽気な声で叫んだ。
嬉しそうにさえ見える。
直樹は私の方に向き直って、頭を手で支えると、にやにやした。
「朝比奈ってベッドの中でもやさしーの?」
「また、そんなに岳のことが気になるの?
そういうこと、聞く!?
今、ここで? それって、完全にルール違反じゃないの?
しおりさんはどうなのよ!?」
「しおり? しおりはね、サイコーですよ」
「が、岳だってすっごく、ス、ステキなんだからね」
私はゴホゴホとむせながら応えた。
「ホント、どこまでもプライド高いなー、万里花は。
こんなこと、張り合ってどうすんの?」
直樹が呆れるから、私もぷっと吹き出した。
「確かに」
直樹は、私の髪の毛を優しくかきあげながら、穏やかな顔で微笑んだ。
「朝比奈だったらさ……朝比奈だったら、万里花の心の片隅にいてもいいよ。
許す」
ああ、これで良かったんだ……とその時私はいろんなことに納得した。
私は岳のことを忘れるなんてできないし、これからも彼のことを思って切なくなることがあるんだろうけど、直樹はそんな私の気持ちにきっと寄り添ってくれる。
だから、私たちきっと一緒に未来を生きて行ける。
「うん。私も、直樹にはしおりさんのこと忘れないでいて欲しい」
「……ありがとう」
直樹は私に唇をそっと重ねた。
それはさっきとは全然違う、どこかすっきりとした穏やかなキスだった。
それから、私たちはゆっくり抱き合った。
ゆったりした優しい時間で、私は大いに癒された。
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