第4話 本音

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「落ち着けよ!!まず、家に連絡して家族に迎えに来て貰え!」 当麻は強い口調で諭す。 (そうだ!あたしったら何を慌てて…) あたしはすぐに、スマホで母親に連絡した。 ザザー…ザブン…ザザー…ザブン… 波は規則正しく寄せては返す。 両親の車は、あたし達の目の前にすぐにやって来た。 バタン。 母親は車が停止するなり「萌恵!」と一声あげつつ 車から転がり出て来る。 そして当麻が背負う萌恵の額に手を当てる。 あたしに鋭い視線を向け、 「あなたがついていながら!」 と冷たく言い放つと、すぐに当麻に向き合い、 「当麻君、うしろに乗って!悪いけど、萌恵を膝枕して貰えるかしら」 と指示を出す。 「はい!勿論です!」 と当麻はハキハキ答え、運転席から降りた父親と共に 萌恵をしっかりと支えつつ車に乗り込む。 母親は助手席に。父親は運転席に。 当麻は後ろで寝かせた萌恵の膝枕をして。 そして車は走り出した。 あたしに何も告げずに。 そう、萌恵を寝かせるから、あたしが乗る場所が無い。 緊急事態だから、あたしにまで構ってる時間が無い。 ただ、それだけの事だ。でも…。 …あなたがついていながら… 母親の言葉は、氷柱みたいにあたしの胸に突き刺さった。 ダメなあたし。妹の面倒は、信頼して任せて貰えていたのに…。 でも、あたしだって風邪気味だったもん! と言い返したい自分。相反する自分の心の声が、 余計に疲れさせた。 …なんだかもう、体に力が入らない。色々考えるのも疲れた… 歩いて帰る気力も湧かなくて、再び砂浜に腰を下ろした。 今日は日曜日。 初夏とあって、家族で遊びに来て居る人達もちらほら出てきている。 …いいなぁ。ワンちゃん連れかぁ。楽しそうだ… 膝を抱えながら、ぼんやりとそんな事を思う。 ザザー…ザブン…ザザー…ザブン… 規則的に宇宙のリズムを刻む波の音。 あたしは目を閉じる。 そこから先の記憶は途切れた。
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