第5話 冷静な現実

1/2
前へ
/15ページ
次へ

第5話 冷静な現実

次に目が覚めたら、病院のベッドの上だった。 最初に目に入ったのは白い天井。続いて看護士さんだった。 どうやら、あれから意識を失ってしまったらしい。 たまたま近くで散歩をしていたご夫婦が 救急車を呼んでくれたそうだ。 病室の窓の外はもう薄暗い。 続いて目に入ったのは左手の点滴。 そして無意識に両親を探している自分に苦笑してしまう。 萌恵が大変な時に、ここに来る訳が無いのだ。 心細げに見えたのか、看護士はすかさず説明してくれた。 両親は明日の面会時間にやって来るそうだ。 明日は月曜日。 父親がわざわざ私の見舞いの為に有休を使うとは思えない。 来るなら母親だけだろう。 萌恵の事で大変だろうから、本当に来るかどうかは疑わしいが。 肺炎を起こしてるとかで 7日から14日程度入院が必要だそうだ。 安静が必要だからトイレ等はナースコールを呼ぶように、 との事だった。 看護士は静かに病室を出て行った。 …肺炎。萌恵の時は長い時は一カ月くらい入院していたものだが、 自分は健康だけが取り柄なのだ。 せいぜい5日もしたら退院できるに違いない。 医者もビックリの回復を見せるだろう。 だから別に、母親も見舞いに来る必要など無いのだ。 まぁ、虐待…この場合ネグレストとか…を疑われても困るだろうから、 2.3回程は面会に来るかもしれないが。 念の為言っておこう。 あたしは別に、いじけて捻くれてる訳ではない。 ただ、冷静に現実を見つめ、そのまま述べているだけだ。 そこに私的な感情はいらない。 叫んでも、足掻いても、手に入らないものは手に入らないのだ。 いくら萌恵になりたい!と願っても羨んでも、 現実は変わらない。 それでもどうしようもなくなったら、海を見れば良いのだ。 嫉妬心、憎悪、訳のわからない怒り。 そういった反モラルな感情は、波に浄化して貰えば良い。 海が近くに無い時は、イメージで良いのだ。 …ザザー…ザブン…ザザー…ザブン… ほら、イメージの波。波が立つところに ドロドロの反モラルな感情を胸から切り取って、 波に乗せれば…地球の鼓動に合わせてドンドン浄化してくれるから。 それは無になって、宇宙のリズムと一体化していく。 そして地球の鼓動は、 優しく眠りの世界へと誘(いざな)ってくれる…。 …ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加