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翌日の午前中、母親は着替えを持ってやってきた。
…ほーらね、父親は来なかったでしょ?…
真っ先に萌恵の様子を聞こうと思ったのだが
「萌恵はただの風邪だったわ。病院で点滴を打った後、自宅で休んでる」
と説明してきた。
…やっぱり、あたしより萌恵…
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
モヤモヤイライラザワザワしてきたから、波をイメージする。
「…あの、ごめんね。悪かったわ」
母親は決まり悪そうに謝ってきた。
「なんで謝るの?あたしの自己管理の問題だし。
それよりも、萌恵が無事で良かったよ。
あたしは健康だけが取り柄だし。すぐ回復しちゃうもん。
それより、萌恵のとこに早く戻ってあげて」
あたしは精一杯の笑顔で答えた。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
波をイメージしながら。
「萌恵はお父さんがついてるから」
…ズキン…
微かに胸が痛んだ。そうか、パパ、萌恵の為に会社休んだのか。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
波をイメージして、萌恵への嫉妬心と羨望を消しつつ
「そうか、なら尚更早く帰ってあげなきゃ!
パパじゃ、美味しいお粥作ってあげれないでしょ?」
私は殊更明るく、笑顔で帰宅を促す。
母親は何か言いたそうだったが、帰って行った。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
あたしはしばらく海を見よう。目を閉じれば浮かんでくる、海を。
高校を卒業したら、専門学校か大学か…。とにかく家を出て一人で暮らそう。
あたしはそう決意を固めた。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
誰も見ていないもの、今なら、泣いてもいいよね。
この涙も、波に溶かしてしまおう。
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