第6話 海を見ていた

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第6話 海を見ていた

あれから約三か月が過ぎた。 結局、20日間程入院した。 あれ以来、両親も萌恵も、まるで腫物に触るかのようにあたしに接して来る。 そのせいか、高校を卒業したら家を出たい、と言っても反対はされなかった。 当麻も萌も海に来なくなり、あたしだけがずっとここに来ていた。 ザザー…ザブン…ザザー…ザブン… そしてただ、寄せては返す海を見ていた。 じっと見ていると 波があたしの呼吸と、心臓が地球の鼓動と溶け合って、 宇宙のリズムと一体化していくように感じてくる。 …このまま、波に溶けてしまおうか… ザザー…ザブン…ザザー…ザブン… …僕たちは大いなる宇宙と融合するんだ… 8月の波があたしを誘う。そっと靴を脱ぎ、裸足になった。 そして引き込まれるように海へと近づく。 ザザー…ザブン…ザザー…ザブン… 濡れた砂浜が心地よい。 波が足首を撫でる。少し冷たい。 ゆっくりと海に入っていく。母親の胸に委ねるように。 その時 「菜々!この馬鹿っ!!」 という声と共に、ガシッと右腕が強く捕まれた。 「…当…麻…?」 思いがけない存在に、夢を見ているのだと感じた。 「お前、今何しようとした!?」 彼は激しい怒りを露わにし、両手で両肩を強く掴んだ。 そして乱暴に右手首を掴むと、グイグイと砂浜の方へと引っ張っていく。 「どうしてそんな事するんだ! …あれからずっとお前の後ろ姿を見ていた。 心配で、いつかお前が海に溶け込むんじゃないかと…」 歩きながら説明する彼に、一気に感情が爆発する。 「何で?どうして中途半端に優しくするのよ!? 父も、母も、当麻も…萌恵の事しか頭にない癖にーーーーーっ!!!」 一度爆発した感情は、抑える事など出来なくて ブレーキが利かなくなった暴走車みたいに溢れ出す。 「わーーーーーっ」 と人目も憚らず声を上げて泣いた。 彼はそんなあたしをあやすようにしてそっと抱きしめ、右手で頭を撫で続けた。
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