第4話 本音

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第4話 本音

…海を、見ていた…。 ザザー…ザブン…ザザー…ザブン… 寄せては返す波を見ていると、 自分が地球と一体化した気分になる。 地球の鼓動は宇宙のリズムだ。 もしやこれが「無」の境地とやらの状態かもしれない。 しかし、今日は今一つ波のリズムの同化出来ない。 当麻と萌恵が、海辺で寄り添って語りあっている。 そんな姿は、もう見慣れている。 だからそれが理由ではない。 ここ一週間程、風邪気味のせいだからだろうか。 あたしは滅多に風邪を引かない。 引いても鼻水くらいですぐ回復してしまう。 「健康」。数少ないあたしの美点の一つだ。 『当麻の事、好きになっても構わない?』 萌恵にそう聞かれて以来、あまり熟睡出来ない日が続いていた。 だから、少し免疫力が落ちたのだろう。 そして今朝の出来事を振り返り、思わず苦笑してしまう。 「コン、コン…ごほっ」 軽く咳き込んだあたしを、母親は心配そうに見つめる。 そしてすかさず、声をかける。 「ちょっと、菜々子。まだ風邪治らないの? 早く治しなさい!萌恵にうつったら大変でしょ!」 …そう、あたしじゃなく。心配なのは萌恵の事だけなんだ。 まぁ、あたしは健康だけが取り柄だしねー… と納得しつつも …萌恵にさえうつらなけりゃ、あたしはどうなってもいいのかよ?… と内心は問い正してみたかった。 「うん、ごめんごめん、気を付けるよ」 と表向きは素直に答えつつ。 ザザー…ザブン…ザザー…ザブン… 規則正しいリズムを繰り返す波。 …なんだか、頭が痛くてボーッとする。体も怠い。帰りたいなー… ザザー…ザブン…ザザー…ザブン… 機械的にただ波を見つめていた。 「菜々、菜々!!」 あたしの肩をゆすり、 真剣な眼差しであたしを見つめる当麻の声で我に返った。 …トクン… 彼の真剣な眼差しに、思わずときめいてしまう。 だが、次の言葉で一気に現実に戻される。 「大変だ!萌恵が酷い熱だ!!」 慌てて立ち上がったあたしの目に飛び込んだのは、 当麻の背中でぐったりしている萌恵の姿。 「萌恵っ!!」 まるで冷水を頭から浴びせられたように、硬直した。 萌恵の額に手を当てる。…熱い… 「どうしよう…あたしのせいだ。 こんなになるまで気づいてやれなかったなんて…」 …あたしの風邪が、うつったのかも、どうしよう… あたしは自責の念で頭が真っ白になった。
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