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ミツナリは身体をテント内に忍び込ませると頭だけ出して、その煙を観察した。 目を凝らすと煙の輪郭が少しずつハッキリとしてきた。 (ひと、か?) そう思った瞬間全身の毛が逆立ったのを感じた。 アレは見てはいけないモノだ。 直感的にそう思ったが、ミツナリはその人の様なモノから視線を外せずにいた。 好奇心がそうさせたのか、それともあのモノに魅かれたのかはわからないが、とにかくその場から動けなくなった。 更に凝らすとその煙が兵隊の恰好をしているのがわかった。その数は約15人。 服装から推測するに、太平洋戦争時代の日本兵だろう。 兵隊達は2列縦隊を組み行進していた。ひとりだけ列外にいるのは指揮官だろうか? ザッザッと規則正しい足音を鳴らし兵隊達はミツナリのいる方へと近づいてきた。 ヤバいと感じながらもミツナリは彼らに見入っていた。 一切の乱れがない隊列を組む兵隊達の服装はボロボロだった。怪我もしていた。激しい戦闘を繰り広げて来たのだろう。中には腕の無い兵隊も混じっていた。顔に包帯を巻いた兵隊は目を失っているのかもしれない。 そんな状態でも兵隊達は背筋を伸ばし、堂々と歩いていた。 やがて隊列はミツナリの潜むテントに差し掛かった。 兵隊達はミツナリの存在に全く気付く様子はない。それどころか、テントや管理施設も眼中に入っていないようだった。 隊列がミツナリの目の前を通過した。 ―その時。 ミツナリは指揮を執っていた兵隊と目が合った。 虚空を見つめるような目に見つめられ、背中に冷たいモノが流れる。 叫ぼうにも声が出ない。思考は完全に停止していた。 兵隊の右手がゆっくりと上がる。 腰に下げられた日本刀がカチャリと鳴った気がした。 (殺される!) そう思った瞬間、兵隊の右手は日本刀を素通りし、掌を水平にして帽子のツバの位置で止まった。兵隊の口が動く。 『―』 何かを言われた気がしたが、ミツナリには聞取れなかった。 そして、ミツナリの前を過ぎると再び腕を振り隊列を指揮した。 隊列はそのまま何事もなかったかのように、海岸の闇へと消えていった。
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