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「おじさんと、話してたの。」
男の子は女に、おそらく母親であろう女にそう話した。
俺は、不審者と思われるのは嫌なので、一応竿を置いて、ぺこりと頭を下げて挨拶をした。
俺は怪しいものではありませんよ。ただ、ここで釣りをしているだけ。
お宅の息子さんは、今日どころか毎日俺のところに来ていたよ。
世の中、物騒だからちゃんと注意しておくれ。
「おじさん?そんな人どこにも居ないじゃない。」
母親はそう言った。
「おじさんね、毎日釣りしてるんだけどさ。何にも釣れないの。釣れないのに、毎日毎日釣糸垂らしてんの。へんなの、このおじさん。」
悪かったな、毎日ボウズで。
「また、この子はそんなこと言って。」
母親は泣きそうな顔をした。
「ホントだよ。ここに居るじゃない。お母さん、このおじさんが見えないの?」
今度は母親は青ざめた。
「ここは、危ないのよ。ほら見て、はいってはいけません、って書いてあるでしょ?ここは人がたくさん落ちて亡くなってる場所なのよ?」
そうだぞ、坊や。ここは、お前の来る場所じゃないんだ。
俺は2ヶ月前を思い出していた。精神的にも肉体的にもボロボロになった俺は、吸い寄せられるように、この海辺にやってきたのだ。
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