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私はあの教会の庭に1人で来ていた。
この前、力也が見上げていた木に近づくと、やはり窪みの中にまだあのリボンの小箱があった。
私はそれを手に取って周りについた汚れを軽く払うと、中の白いリボンを取り出した。
「何してんねん」
ふいに、綺麗に響く澄んだ声がして、振り向くとそこには力也がいた。
なぜだかいつもの笑顔はそこにはなく、どことなく真剣な表情をしている。
「リキ兄ちゃんこそ、今日は美容院お休みじゃないでしょ?」
「おう、火曜やないからな」
答えになっていない、と思いながらも真顔を崩さない力也から目を離して、私は再び視線をリボンに戻した。
「桃境でね、私を好きだって言ってくれた人がいたの」
「……俺らの寄せ集めやって、健二が言うていた奴か?」
不愉快そうな声の力也に思わず笑ってしまったけど、私はリボンを見ながら頷いた。
「その時は恋愛感情ってものが分からなくてね、返事を先送りにしていたの。恋愛感情が無くてもいいから付き合って欲しいって言われて……」
「はあっ? なんやそれ、やめとけや。好きやない奴と付き合おうなんて」
私は力也を見た。力也はいつもの優しい表情を封印して、不機嫌そうに目を吊り上げていた。
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