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覚えているのは、ひとつのシーン。
紅の夕陽が溶けて滲んでいるような夕焼け空。その紅に飲まれて消えていくタバコの煙。
そして、煙の向こう側を見つめる切れ長の目。ペンキのはがれかけている低い手すりの歩道橋。
長身のその人が手すりに腰掛けたまま落ちないかって冷や冷やしていた……気がする。
言葉を発する意味を持たない空間で、幼い私の頭の上に手を置いた彼の口元だけ細く微笑んでいた。
私は漠然と「今回のお姉さんも、もう来なくなるのかな」と思っていた。寂しいような、ホッとしたような気持ちで。
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