●エピローグ●

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 私の脳裏には、遠くを見つめる猛の瞳が浮かんでくる。  6年前の猛だったら、そんなに簡単に折れなかっただろう。  私が岡崎の家にいた5年間、猛はどんな想いでこの街で暮らしていたのだろう……?  記憶が戻ってから、ふと、考えることがある。  もしも健二達が私を探すのを諦めていたら、私はずっと何も思い出さなかったのだろうか。  それとも、もっともっと時間が経ってから、ある日突然思い出したりしたのだろうか。  6年という年月はとっても長くて、取り戻せない時間は大きすぎる。  だけど、まだ22になる年で良かった。  例えば結婚して子どもが出来て、そんな時期だったらどうなったんだろう。40とか50とかそんな年齢で思い出していたら、私はどうしたんだろう……? 「夕焼け、綺麗やな」  教会の前の大通りが赤い光で照らされていた。  力也を振り向くと、その艶やかな髪が茜色に輝いている。  隣にしゃがんで夕焼けを眺めると、その白い手が私の髪を撫でる。  小さい頃から、いつもこの綺麗な手に包まれていたな、と思い出す。  良かった。  私、この場所に帰って来られた。 【了】
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