水面に咲いた

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 私の地元には、沼がある。  市街地……とは言い難いものの、ほど近い位置にそれはあって、元々はこの一帯が山だった名残もあり、沼の周りは鬱蒼と草木が茂っている。  沼の周囲は緩やかな傾斜になっており、木々や雑草のおかげで、沼の方へ歩いていくと外側からは見えにくい。その傾斜の脇に人が行き交うのがやっと程度の小道があり、そこから沼の方へと入っていける。  地元民はたまに釣りにも行くようなところなのだが、まあはっきり言ってそんなに人は訪れない。本当に時々人が通るようなところだ。  ただ、私のように少年の心を捨てきれない人間はいるもので、こうした鬱蒼とした茂み、そして明らかになにかがいそうな沼を見かけると、どんな生き物がいるんだろう、と人知れず胸を躍らせるもので。  ある時、休暇を使っていい歳こいた大人が魚取り用の網を持って、その沼に魚取りに出かけた。ホームセンターで昆虫飼育用に売られているプラケースを手に、それはもうワクワクしながら沼を訪れた。
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