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一息に話し終えると、いつの間にだろう、俺はあたたかな胸の中にいた。美紘はこわれものを扱うように優しく抱いてくれていた。
「ごめんなさい、気づかなくて。ううん、ちゃんと見ようとしていなかった。だって、契約だけの結婚をしようだなんて、普通は思わないもの。樹さんみたいな思いやりのある人が、できることじゃないもの。子供なんていらないんです。樹さんが幸せになれるよう手伝わせてください。このままでいてください」
俺に思いやりがあるだって? また、そんな風に、勝手な解釈を。思いやりがあるのは、美紘のほうだ。
「美紘さんに協力してもらうようなことはもう何も残っていません。僕のわがままにつきあわせて申し訳なかったと思っています。すぐに別れるのはまわりもおかしいと思うでしょうから、しばらくはこのままで。タイミングを見て、元に戻りましょう。美紘さんには正当な慰謝料をお支払いします。考えたのですが、現金よりも、投資目的の不動産をひとつお譲りしたいと。きっと、何かの役に立つはずです」
「そんなもの、私が受け取ると思いますか?」
「そうですよね、ぜったい断られると思った」
今度は強く抱きしめてきた。どうしようかと迷ったが、耐えられなくなって、腕をまわしてしまった。少し、気持ちがやわらいだ。
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