#09

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*  それからの日々は、平穏だった。美紘が望んだように一緒に食事を取り、休みの日には映画や買い物にも行った。美紘の小学校の運動会をこっそりのぞいて、学校ではちゃんと教師をしているのだと知った。頼りないのはプライベートの時だけだ。子供にも慕われているようだった。  たまには健太郎に会いに行くように言ったが、美紘は「今はいい」と受け入れなかった。気をつかわせているのかもしれない。だとしたら、もう少しだけガマンしてもらうしかない。  その日は、帰宅すると室内が真っ暗だった。美紘からは、ずいぶん前に、家に着いたとメッセージが来ていたはずだ。何かが、変だ。リビングに入り、照明のスイッチを入れる。  パァーン! 「ハッピーバースデー!」  弾けたクラッカーから飛び出したテープが頭から垂れ下がっていた。それを見て、きゃはははは、と美紘が楽しそうに笑う。 「29歳おめでとうございます。ケーキもありますよ」 「どうも、ありがとうございます」  壁に貼られた模造紙に『お誕生日おめでとう』と雑な文字がらんでいた。もっとましなパーティーグッズはどこにでも売られているというのに。このセンスの無さは、どうしようもない。     
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