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ケーキだって二人で食べるには大きすぎる。料理だってどれも山盛りだ。相撲部屋じゃないんだから。キッチンは汚れた鍋やフライパンであふれ、ぐちゃぐちゃだった。気づいたら、声をあげて笑っていた。
「どうしたんですか、笑ったりして」
「無茶苦茶な人だなあと思って。どうにかならないんですか、その性格」
まったく女らしくない。きっと、こういうこと全般が苦手なのだ。それでも頑張ったのだろうと思うと、不覚にも感動してしまっていた。
「すみません、こんな性格で」
珍しく、すねているようだった。例えば恋人だったら、機嫌をとるためにスキンシップのひとつもとるんだろうけど、そういうすべもない。
「ケーキを食べる前に、着替えてきてもいいですか?」
「もちろん、どうぞ」
あれだけにぎやかな人だ、出て行かれたら、さすがに寂しいだろう。一人になれば、ここは広すぎる。自分もまた別の部屋を探せばいい。新しい環境になれば、次第に忘れていくのかもしれない。別れるわけじゃない、始まってすらいなかったんだ。そんなに深く考える必要はない。大丈夫だ。
リビングに戻ると、いやに静かだと思った。
ソファに座る美紘の後ろ姿を見て、いつもと様子が違う、そう感じた。
肩がわずかに震えていた。
泣いているのだと分かった。
それに気づいたら、名前さえも呼ぶことはできなかった。
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