#09

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* 「神谷さん、お客様がお待ちになっています」  受付からの内線は、いやに神妙な声だった。  一階のロビーで待っていた男には見覚えがあった。名前は知らないが、誰かのお父さん。どうしてあの男が、俺の会社にいるんだ? 「こんにちは。沢田先生のご主人」  ストーカー男は、映画館で会ったときと同じように、不敵な笑みを浮かべていた。   「こんなことをすれば、どうなるか分かっているんでしょう?」 「そんな怖い顔しないでくださいよ。ご主人のことが心配で、こうして伺ったわけですから」 「話すことはありません。どうぞお帰りください」  立ち去ろうとすると、腕をつかまれた。 「奥さん、沢田先生は、浮気していますよ」  そう言って、写真を差し出される。美紘と健太郎が顔を見合わせ笑いあっていた。こんなもので俺を強請(ゆす)る気なのか。 「男の部屋から出てきたところですよ」    カッとなって、腕を振り払った。反動で、男がよろめいた。大げさに倒れ込むようにする。人目をひきつけるために、わざとだ。 「神谷っ!」  開いたエレベーターから前の人を押しのけるようにして、上司の水口が駆け寄ってきた。     
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