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ふと、水口の顔を見て、真由子を思い出す。聞いてもいいだろうか?
「水口課長、あの、成瀬さんご夫妻は、お元気ですか?」
「はあ? 何で今そんなこと聞くの? お前、どうしちゃったの?」
しかめっ面で、じろじろと見てくる。いつものように、誤魔化す言葉も思いつかない。
「別にいいけどさあ。この前ね、あの夫婦のところにかわいい赤ちゃんがやってきたの。養子なんだけどね。長いこと子供ができなかったから、ずいぶん前から色々とやってたよ、二人で。でも、良かったよ。絆っていうの? そういうのが強くなったんじゃない?」
「そうなんですか、安心しました、本当に」
水口課長は余計に変な顔をした。何も知らないんだ、この人は。そして、これは暗黙の了解なのだろう。成瀬夫妻と俺とのあいだにあったことは、言わずにおこう。
スマートフォンが振動した。美紘からのメッセージだ。
『ごめんなさい。健太郎から急用があると連絡が来ました。帰りは送ってもらいます。心配しないでください』
ふう。ため息がこぼれた。こんな時になんでわざわざ。そうは言ってもやめさせることもできない。何もなければいいけれど。
「しっかりしろよ、奥さんのこと守ってやれよ」
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