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「うわー、すごーい、無駄に広ーい」
今のは褒めていない、間違いなくイヤミだ。美紘は贅沢を嫌う。新しいマンションの部屋の家賃がまず気に入らないのだ。こちらは美紘に一円たりとも要求するつもりなんかないのに、いちいちうるさい。
自分の引っ越しは一週間前に済んでいた。今日は午前中に美紘の荷物が届き、午後になってやっと、忘れ物が届けられたかのように最後の最後でのっそりと本人がやってきたのだ。
「キッチンも広ーい。ここで寝れますね?」
「ああ、はい。どうぞ、お好きに」
「樹さんって、やっぱり、お坊ちゃんですよねえ。ご実家にうかがったときも驚きました」
実家と言っても今は誰も住んでいない。広い庭と邸宅は暮らすのに不便なのだ。父と後妻は別のマンションに移っている。ただ、美紘が実家を見たいと言ったので連れていっただけだ。どうせあんなものすぐに売り払ってやる。
「私も生活費をお支払いします。ちゃんと請求してください」
「大丈夫ですって。僕にはサラリーマンとしての給料だけじゃなく、神谷が代々所有している不動産の収入もあるんです。だからご心配なく」
「だけど、それは樹さんのものであって、私とは関係ないですから」
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