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キッチンの中に入ると、鍋からお湯が吹きこぼれている。ふたを取ろうとして、熱っ、と美紘が叫んだ。
すぐに火を消して、美紘の手を流水で冷やしてやった。料理もまともにできないのか、この女は。
「ありがとうございます。あの、自分で、あとはできます」
もじもじしながら、頬を赤くして美紘が言った。
何を赤くなっているんだ、手を握られたくらいで。そう思ったら、俺のほうまで汗が出てきた。
二人分のそばが、食卓に並べられた。たったこれだけの準備でいやに疲れた。
「健太郎さんとの話し合い、どうでしたか?」
「子供の件は、はっきり断られました。だけど、これまでどおり友達としてつきあってくれるそうです。心配はいりません。子供が無理でも、私には別の目的ができたので大丈夫です」
「別の目的? 何ですか、それは?」
「樹さんを幸せにします。樹さんが愛する人と幸せになれるように、全力でサポートします。任せてください」
「なに、言っているんですか?」
「だから、今、言ったとおりですけど、伝わりませんでしたかっ!?」
興奮したのか、意味も無くガタンとテーブルを揺らし荒っぽく立ち上がる。そばつゆがこぼれるかと思った。
「僕のことは考えてもらわなくていいので、自分のことを考えてください」
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