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マスクと手袋のことを言っているのか? なるほど、そういうわけか、そんなことを思っていたら。
美紘によってぐるぐると毛布にくるまれてしまった。
「パジャマ、どこですか?」
そんなに乱暴に人の服をかきまわすな。
「下着は、どこ?」
もう、いいから、出て行ってくれないかな。
「とりあえず、これでいいか」
ぽんぽんと服や下着を取り出しては投げる。雑すぎるだろ。
「着替える前に、体をふきましょう。そのまま、動かないで」
また、走って行ってしまう。他人と暮らすのが、こんなにめんどうだとは知らなかった。実家にいたころは、かまわれる時間より一人でいる時間のほうがずっと長かったのだ。誰と暮らしても、そういうもんだと思っていた。
お湯をはった洗面器とタオルを持って、美紘が戻ってくる。床をぬらされそうだと心配になる。
「じゃあ、少しガマンしてくださいね」
そう言うと、毛布をずらされた。絞ったタオルを体に当てられる。
タオルの温かな感触が、首元、肩、胸へと降りてくる。これ以上どうするつもりなんだ。今度は脇の下を通り、背中へと手が回る。美紘の顔が胸元に来た。消毒液のにおいがした。
無理だ、そう思った。
なんとか力を振りしぼって、美紘の体を押し返す。
「もう、やめろ」
それだけ言うのが精一杯だった。
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