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『返しますよ。ホテル以外の場所で』
しばらくして返信が届く。
『15時に待ってます』
地図が貼ってあった。今から渋谷まで来いというのか。病み上がりなんだこっちは。返事を迷っていると。
『来なければ、あなたの上司に全て話すから』
どういうつもりだ、脅しているのか?
バレて困るのは自分だって同じだろう。
真由子のあの言葉がよみがえった。
――神谷くんはいつだって安全な場所へ逃げられるじゃない。
思考を遮るように、玄関のドアが乱暴に開けられた。
「きゃあ、わわっ」
美紘が騒ぎながら廊下をやってくる。エコバッグを両手に抱えているせいで、自由がきかないのだろう。
「樹さん、起きていて大丈夫ですか?」
その表情はどことなくぎこちない。
気にしているのか、昨夜、冷たくあしらったことを。
「ありがとうございました。すっかり体調も良くなりました」
「そうですか」
笑顔も変だ、分かりやすすぎるだろう。
「美紘さん、字が下手ですね。保護者からクレームきませんか?」
「あっ、痛いとこつかれた。実は、時々あります。もう少し丁寧に書いてくださいと、オブラートに包んではありますが」
えへへ、と舌を出す。少し調子が戻ったようだ。単純だな、と思う。
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