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「でも、ネコの絵は、なかなかじゃないですか」
「ネコ……、犬ですよ、あれ」
気の毒なセンスだ。だけど。
あははは! 美紘が元気よく笑い、安心した気持ちになる。そして。
美紘のころころ変わっていく表情を、自分が思い通りにしてやった気になって、少し高揚していた。
「おかゆ、食べました? 食欲ないですか?」
「いただきます」
キッチンから楽しそうな鼻歌が聞こえる。昨年流行した曲だ。
「運動会のダンスでやる曲なんですよ」
そうですか、と言って、食器を渡す。すると、座ってて、と追いやられる。システムキッチンの扱い方もよく分かっていないのに、平気だろうか。
その時。
再び手元でメッセージの着信を知らせる音が鳴る。画面をタップするまでもない、真由子だ。
『来ないつもりなの? 本気よ』
おかしい。真由子はこんな女じゃなかった。俺なんかになんの執着も無かったはずだ。どうして?
「美紘さん、すみません、今から出かけます。帰ってから食べます」
え? そう言って振り返った美紘の顔は、再び、ひどくぎこちないものに戻っていた。
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