#08

9/13
3066人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
「不妊治療を続けているけれど、夫とではダメみたい。私の年齢じゃ、妊娠するのにも限界が近づいている。他に頼める人はいないの」 「ふざけるな、冗談じゃない。なんで、俺なんだ」  精子提供でもなんでも他に方法はあるだろう。金ならいくらだって持っているはずだ。 「神谷くんは信頼できる。外見だって好みだもの。優秀だし、家柄もいい。問題ない遺伝子よ」  真由子が身を乗り出してくる。顔を近づけて小さな声で言った。 「誰にも言わない。迷惑もかけないわ。夫も神谷くんに直接会ってお願いしたいと言っている」  まるでシナリオだ、俺が言っていた台詞そのものじゃないか。そんなことを考える人間が他にもいたなんて、笑ってしまう。健太郎の気持ちが、今なら、よく分かる。そんなこと頼まれて、分かりました、とは決してならない。 「成瀬さんは知ってたんだ、俺とのこと」 「ごめんね。私たち夫婦、普通じゃないの」  どこから、始まっていたんだ? あの日、あの夫婦に初めて会った時、年齢を聞かれた気がする。もう選別が始まっていたのか?  じゃあ、水口課長は? あの人が俺を家に誘ったんだ。まさか……。     
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!