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「無理だ、そんなこと。そうやって大人のエゴで生まれた子供を知っている。そいつは産まれてきたことを悔やんでいた。生きることに失望していた。誰のことも愛せない可哀想な大人になった。知っているのに、できるわけない」
俺はそういう子供だった。神谷の跡取りとして必要とされただけ。愛しあう男女から産まれたわけじゃない。
真由子の瞳から涙が落ちた。ぽたり、ぽたり。やがて、溢れ、流れ、川のようになる。
「分かってる。神谷くんは正しい。そうよ、ただのエゴだもの。私たちは選ばれなかったのね。諦めなきゃいけないのよね」
違う、そうじゃないんだ。
『子供が無理でも、別の目的ができたの。
樹さんを幸せにします。
母親が子供を思うのと同じ気持ちで言っています』
そうだ、美紘が言っていたじゃないか。
愛情には、いろんな形があるってことを。
「あなたの夫を、成瀬さんを愛してあげればいいじゃないですか。あなたがもらってるぶん、愛をかえせばいいだけです。大丈夫です、あなたはじゅうぶんに幸せです」
「ありがとう」
真由子は泣きながら笑っていた。はじめてこの人を、綺麗だ、そう思った。
「ありがとう、神谷くん。お幸せに。さようなら」
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