#08

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「無理だ、そんなこと。そうやって大人のエゴで生まれた子供を知っている。そいつは産まれてきたことを悔やんでいた。生きることに失望していた。誰のことも愛せない可哀想な大人になった。知っているのに、できるわけない」  俺はそういう子供だった。神谷の跡取りとして必要とされただけ。愛しあう男女から産まれたわけじゃない。  真由子の瞳から涙が落ちた。ぽたり、ぽたり。やがて、溢れ、流れ、川のようになる。 「分かってる。神谷くんは正しい。そうよ、ただのエゴだもの。私たちは選ばれなかったのね。諦めなきゃいけないのよね」  違う、そうじゃないんだ。 『子供が無理でも、別の目的ができたの。    樹さんを幸せにします。  母親が子供を思うのと同じ気持ちで言っています』  そうだ、美紘が言っていたじゃないか。  愛情には、いろんな形があるってことを。 「あなたの夫を、成瀬さんを愛してあげればいいじゃないですか。あなたがもらってるぶん、愛をかえせばいいだけです。大丈夫です、あなたはじゅうぶんに幸せです」 「ありがとう」  真由子は泣きながら笑っていた。はじめてこの人を、綺麗だ、そう思った。 「ありがとう、神谷くん。お幸せに。さようなら」
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