#08

11/13
前へ
/131ページ
次へ
*  自分で言うのもなんだが、少し人間ぽくなってきたような気がする。    昔の俺が、あんなことを言うわけがない。  美紘に影響されているに違いない。  駅からマンションまでの道を歩きながら、美紘が遠回りを嫌がらず、夜は街灯とコンビニがあるほうの道を使ってくれればいいけれど、と考えていた。  10分足らずの道だけど、何かあったらと思うと心配だ。あの人は特に、抜けているから。  マンションのほんの少し手前で、抱き合う男女の影が見えた。夜だからって、こんなところで堂々とよくやるよなと思う。  すると、女のほうが大胆に、男に口づけた。  盛り上がっているところを悪いが、そこを通らないと帰れないんだ。できるだけ見ないように、横をすり抜けようとしたら。 「あっ」  その声に驚いて、振り返る。 「樹さん、お帰りなさい」  美紘は照れ笑いを浮かべていた。おい、嘘だろう? そして。  隣の大きな男はぺこぺこと頭を下げている。もさもさした頭の、何だかはっきりしない顔をした男だった。 「この人が、健太郎です」 「はじめまして、美紘がお世話になってます。って、俺が言うのも変ですけど」     
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3143人が本棚に入れています
本棚に追加