3143人が本棚に入れています
本棚に追加
*
自分で言うのもなんだが、少し人間ぽくなってきたような気がする。
昔の俺が、あんなことを言うわけがない。
美紘に影響されているに違いない。
駅からマンションまでの道を歩きながら、美紘が遠回りを嫌がらず、夜は街灯とコンビニがあるほうの道を使ってくれればいいけれど、と考えていた。
10分足らずの道だけど、何かあったらと思うと心配だ。あの人は特に、抜けているから。
マンションのほんの少し手前で、抱き合う男女の影が見えた。夜だからって、こんなところで堂々とよくやるよなと思う。
すると、女のほうが大胆に、男に口づけた。
盛り上がっているところを悪いが、そこを通らないと帰れないんだ。できるだけ見ないように、横をすり抜けようとしたら。
「あっ」
その声に驚いて、振り返る。
「樹さん、お帰りなさい」
美紘は照れ笑いを浮かべていた。おい、嘘だろう? そして。
隣の大きな男はぺこぺこと頭を下げている。もさもさした頭の、何だかはっきりしない顔をした男だった。
「この人が、健太郎です」
「はじめまして、美紘がお世話になってます。って、俺が言うのも変ですけど」
最初のコメントを投稿しよう!