#09

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「店内での写真撮影は、購入者だけの特典らしいですよ」  人気のジュエリーショップだから選んだとはいえ、そんなことに何の値打ちがあるのだろう。  ソファに座らされ、婚約記者会見のようなポーズをさせられる。まったくやってられない。美紘はと言えば、すっかりご機嫌で、ぴたりと体を寄せてきた。  この人は、ただでさえ、鈍感だ。何の気配も感じていないだろう。これから俺が話そうと思っている内容のことなど、きっと微塵も気づいていない。  適当に選んだわりに、華奢だけどきらびやかな指輪は、美紘の指になじんでいた。  とても美しいな、素直に、思えた。  帰り道も、マンションに戻ってからも、美紘は指輪を外さなかった。ちらちらと、何度も見ている。大事そうに、そうっとさすったりしている。気に入っているようだった。  美紘が来てからたった二週間で、リビングは雑然としてしまった。見たこともない木彫りの置き物や健康グッズが散乱している。私物は置かないよう言っても、返事はその時だけだ。すぐに物が増える。二、三日で、注意する気も失せていた。 「美紘さん、ソファに座って。大事な話があります」  ぽかんとした顔で「はい」と言う。  いざとなると、いくらか緊張してきた。     
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