#09

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 軽く深呼吸して、話を切り出す。 「僕たちの結婚のことですけれど、すでに破たんしています。契約はもう失効です」 「どういう、意味ですか?」  美紘はとても驚いたようで、少し声を震わせた。 「僕たちは甘かった。美紘さんは健太郎さんの子供を持つことはできないし、僕はもう真由子と別れました。結婚自体が、無意味です」 「でも、樹さんが協力してくれるって、跡取りが必要だって、そう言ってましたよね?」  すがるような声だった。美紘が、いつもより女に思えた。不思議だった。 「そういう考えはやめることにしました。僕と美紘さんのあいだにもうけた子供は、きっと僕のようになります。僕は、神谷の家を守るためだけに、父がどこかの女に産ませた子供です。母親なんて最初からいない。必要だったから育てられただけで、愛情なんて受けたことありません。叔母の絹代だってそうです。僕を跡取りとして厳しく躾けて育てました。そう言えば、父の女が、後妻のことですが、あの人だけは別の意味で僕を愛しました。僕が中学生のときの話です。愛人の家から帰らなくなった父の代わりを、あの女は僕にさせました。僕が歪んでいるのは、きっとこういうこと全部が原因です」     
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