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海鳴りーー暴風雨や津波の前兆として、海の方から響いてくる遠雷または風のような音。
*****
千津子は海を見ていた。空の青さとは違う、複雑な色合いの海。
青に緑、水色に碧色。光の加減でいろんな色になる。
海だけは飽きがこない。いつまでだって眺めていられた。
「おい」
突然、千津子の小さな世界に乱入者が現れた。
自転車に乗って現れた乱入者に、千津子は眉を寄せる。
色黒の乱入者は乱暴な仕草で千津子の頭に麦わら帽子を被せると、呆れた口調で言った。
「また何も被らないでいたんだな。おばさんが心配してたぞ」
「別に、いいじゃない。私の勝手でしょ」
そういいながらも千津子は麦わら帽子を突き返しはしなかった。
太陽は痛いほどに照りつけている。実際、暑かったのだ。
千津子は手の甲で額に浮かぶ汗をぬぐうと、自転車から降りた乱入者、同級生でありお隣さんでもある少年ーー東江陽一を見た。
まだ細い身体は骨太で、よく日に焼けており、短く切られた髪に白いタオルを巻いている。
沖縄県民、しまんちゅらしい少年だ。
千津子とは違う。
肌はまだ白いし、顔立ちもどこか違う。
千津子は、ないちゃー。
二カ月前、沖縄県民が内地と呼ぶ本土から引っ越してきた、新参者だった。
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