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「変な音がする」
翌日、千津子はまた海に来ていた。
この島は田舎で、遊ぶ場所が少ない。
海に来るくらいしか、暇をつぶせるものがないのだ。
「海鳴りだよ」
陽一が言った。今日は釣りをしていない。
「海鳴り?」
「台風とかの前に、風がこんな音をたてるんだよ。お前、明日はここに来るなよ」
「・・・・・・陽一は?」
「俺も来ない。台風舐めるなよ。波にさらわれるぞ」
陽一の真剣な顔を見て、千津子は小さく頷く。
表情を緩めて、陽一は自転車に跨がった。
「乗るか? 送ってくぞ」
「・・・・・・うん」
千津子は少し緊張しながら自転車の後ろにちょこんと座った。
「えと、・・・・・・よろしく」
「なんでおとなしくなってんだよ」
「う、うるさいなあ。ほら、さっさとこいで」
「はいよ」
ゆっくりと自転車が走り出す。
びゅおおおお、びゅぅううう。
海鳴りの音が聞こえる。
千津子は首をすくめて、黒い雲が渦巻く空を見上げた。
いつもの青空が、今は見えない。
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