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目が痛いくらいの青空が広がっている。
「お母さんにめちゃめちゃ怒られた」
「当然だな」
台風が去った翌日、千津子は心配をかけた罰として、掃除の手伝いに追われていた。
そこへ陽一がやってきて、今は自主休憩しているのだった。
「ほれ、半分」
「ありがと」
もらったアイスを囓るとさわやかな味がした。
千津子は目を細めて海を見た。
遠くに見える海は穏やかで、昨日の海が嘘のようだ。
「まだ当分は海に近づくなよ。荒れてるからな」
「穏やかに見えるのに」
「見えるだけだ」
ふうん、と呟きながら、千津子はちらりと陽一を盗み見た。
「なんだ?」
「べつに、なんでもない」
慌てて目を逸らして、もう一口アイスを囓る。
海鳴りの音がする。
それは千津子の中から聞こえている。
何かが始まりそうな、漠然とした不安とーー期待。
沖縄に来て、初めての夏が始まる。
渦巻く風が、千津子を巻き込んで、どこか遠くに運ぼうとしている。
そんな、予感がした。
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