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夢の世界が遠くなっていく予兆みたいなものだ。
なんとなく、世界と自分のつながりが希薄になっていくのが感じられる。
本体の僕が覚醒しようとしている。
すると、じいちゃんが、ヒョイとウニをつかまえてくれた。ちょっと小型だが、じいちゃんは、パコンと、かるがる、ウニのからをこわす。
「ほら。かーくん。うまそうだろう?」
「わーい!」
完全幼児化しつつも、ちゃっかり、ウニは食べる。
そのとき、僕は最初で最後の体験をした。
ほんとに、ウマかったのだ。
ウニの甘みと濃厚なコクが、口いっぱいにひろがった。
夢のなかで味を感じたのは、このときかぎりだ。
味わったとたんに、じいちゃんの姿が、ぼんやりし始めた。
「じいちゃん。今、楽しい?」
「ああ。ここは、いいとこだからなぁ。毎日、楽しいよ」
そうか。よかった……。
僕は布団のなかで目をさました。
とても幸福な気分。
すっと、ひとつぶ、涙がつたいおちた。
天国って、ほんとにあるんだね。
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