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彼女のおばあさんが若い頃に建てたという、築60年以上のボロ家は、立地からみても決して住み良い場所とは言えない。
しかし彼女にとってこの家は、今は亡きおばあさんとの思い出が詰まった大切な場所なのだ。
いくらこの世界「スティムド」を作り出し、管理する者として君臨する楓にも、手出しできない領域だ。
…そう、このスチームパンク風の世界「スティムド」とは、楓の持つ特異な能力によって創り出された、地球と異なる歴史を辿る「妄想世界」なのだ。
地球に生きる人間が、何かしらの能力を保有している現代。
ある人は空を飛べたり、ある人は水中で呼吸ができたり、ある人は難解な問題を一瞬にして解ける頭脳を持っていたり、能力は千差万別だ。
中でも「ぶっちぎりでヤバい能力」との呼び声が高い、楓の「ノーリスクで新たな世界を創る」能力は、発動するにあたって、世界政府の認可を必要とする代物である。
現時点までに創られた世界は全部で9つあり、これらの世界は、政府の干渉を一切受け付けないよう法律が施行されている。
楓は9つの世界を自由に往き来出来るが、その他の人間が創られた世界へ行く術は、例外を除いて1つしか存在しない。
唯一存在する正規の方法とは、楓と「人の本質を見抜く」能力者、それから世界政府の間者10名が見守る中で度重なる面接を行い、害悪がないと判断された場合にのみ来訪を承認することだ。
面接は完全予約制で、定員が先着100名まで。楓の私生活や世界の管理状況を鑑みて、毎月25日にのみ行われている。
しかしそのうち、来訪の許可を得られるのは極僅かである。
現実世界での生活に絶望した者が新たなスタートを切るためであったり、高度な医療技術を保有する世界で不治の病を治療したり、より自分を高めるために精神修行の場を欲する者などが、率先して承認されやすい。
面接の予約は電話でのみ受け付けており、番号は012…
「…どの。…楓殿?」
「んっ…ふぁ…」
左肩が壮絶にユサユサと揺れ、楓は大あくびしながら瞼を開いた。程よい気温に包まれていたせいで、彼女を待っている間に、うたた寝してしまったらしい。
錘が着いてるんじゃないかと錯覚するほど、重たく垂れ下がってくる瞼を必死でこじ開け、楓は背伸びしながら立ち上がった。
改めて辺りを見渡すと、すっかり陽が落ちていた。
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