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目を細めるスーツ美女は、バインダー型の電子タブレットケースに目を落とした。とはいえ挟んでいるのはタブレット端末ではなく、魔力によって形成された機器になるが…さして電子タブレットと変わり無い。
画面の輝度が予想以上に高かったのか、スーツ美女は目をしょぼつかせながら、連絡事項を読み上げた。
彼女は笠崎此処依、23歳。
楓が住む世界からスティムドへ派遣された世界行政機関、通称世界政府の職員であり、世界政府スティムド支部の若き支部長だ。
…支部長と言えば聞こえはいいが、実質スティムド支部唯一の職員なのだ。まだ若い故、不測の事態には弱いが、実直で真面目な方だ。
「…と、最近グライスタ地区の山道で、魔物による地滑りが多発していると…楓氏、私の顔に何かついておりますか。視線が気になるのですが」
笠崎はバインダーに顔の下半分を隠して、楓を睨む。ガン見していると指摘された楓を、天都も睨んでいた。それはもう、仁王像の如く苛烈な表情で。
「…楓殿?なにゆえ笠崎殿を見つめておられる?」
腰の短剣を手にする天都。画面の光が刃に反射して、ぎらりと鈍く光らせた。
女性2人から睨まれても、楓はマイペースを崩さない。
「ああいえ、不純な動機ではありません。ただ、笠崎さん?」
「なにか」
「画面が眩しいのでしたら、少々輝度を下げた方が見易いかと思いますよ」
「…きど?どこにそんな機能があるというのです」
…この世界、スティムドは機械と魔法により発展した妄想世界なのだが、笠崎はなんというか…壊滅的に機械に弱いのだ。
「こうですか。ふんっ、ふんっ」
輝度を落とすためなのか、いきなり真顔でタブレットを振ってみたりしているが、ジャイロ機能が働いて、画面がぐるぐる回るだけ。
「っふ…!くくく…」
先程まで殺気を醸していた天都さえも、声を圧し殺して笑う始末。流石はテレビのチャンネルすらまともに変えられず、2時間特番を観逃した女性だ。
彼女がタブレットで出来る操作は、バインダーに書き記された情報伝達用アプリケーションの使用法のみ。基本設定の開き方は記載されていないので、分かるはずもないのだ。
「笠崎さん。あまり振りすぎると、保存されている情報が混ざりますよ」
「え。」
笠崎はピタリと動きを止め、やがてタブレットを左右に優しく揺らした。
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