序章1━仮想戦線~imaginary skirmisher~

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 激しい風雨が装甲を叩き、耳障りな音を狭い操縦席いっぱいに奏でてくれる。  いい加減にうんざりだ。そう思い出した頃にようやく待ちに待った通信が入った。 『本部よりチームシルバー全機へ、目標は国鉄路線に沿って進行中。3分後に射程内に入る予定。目視次第、攻撃を開始し、敵を撃滅せよ』 「散々またしてこれか……」  普通なら敵の進路も速度もだいたいは判っていたはずだ。それなのにようやく連絡があるとは。かなり高い難易度だと言える。  今からでは作戦に合わせた配置移動もできないだろう。  数秒の思考の後、通信のスイッチに手が伸びた。 「各機、聞いてのとおりだ。幸い雨で熱反応が鈍い、分散して各個叩く。俺が奥の歩兵装甲車に近接戦闘。ルガーと金子はレールランチャーで戦車隊を右側から、ハウザーとカスパールは同一目標へ左から対戦車誘導ミサイルだ。歩兵の対PWミサイルには注意しろ!」 『あいよー』 『了解しました』 『お前が言ったんだ責任取れよ』  好き勝手な返事に小さく舌打ちをしながらも、コンソールの操作を始めた。  動力を待機モードから通常モードへと切り換える。これは車両等で言うところの変速と同じだ。これによってモーターの出力が上がり、パワーやスピードが格段に上昇する。  次に操作方式を切り換える。イスが引っ込みだし、立つような姿勢に変わる。モニター類の配置も若干移動し正面視界の小窓の下に並ぶ。さらに空気入れのような音を立てながら、手足の周りの空間が締まり、一体となって動き出す。  操縦席は更に狭くなったが、逆に手足の自由度はかなり上がっている。  気がつけば、機械に繋がれた操り人形のような自分が居た。しかし逆だ、この機械を操るのは俺なのだから……。  己にそう語りかけ、如月 慶樹(きさらぎ よしき)は戦場へと飛び出した。
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