序章1━仮想戦線~imaginary skirmisher~

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 泥を跳ね上げながら森林を駆け抜け、道路との境界にある金網を飛び越える。  慶樹は機体を車列の側面へ回り込ませ、最後尾の歩兵戦闘車両に手持ちの通常火器、35mm機関砲をフルオートで叩き込んだ。  周囲の歩兵が逃げ惑い、戦車の砲塔がこちらへ旋回を始めたのを確認したのとほぼ同時に、『避けろよ』という通信と熱源の接近を知らせるアラームが操縦席に鳴り響く。  そのアラームの対象である十数発の対戦車ミサイルが、前から一台ずつ戦車を炎に包みこんだ。  慶樹は素早く機体を跳躍させ、車列と距離を取る。今度は後ろから順に戦車が砲弾で破壊されていった。  敵の無力化を確認し、林から各々の火器を持った機影が四つ現れる。木々を薙ぎ倒すそれらは、全高五、六メートル程はあった。  本体から伸びる力強い四肢、各種センサーと対人装備から成る可働式の複合ユニット、いわゆる頭を登頂部に持つそれは、人型と言えるパーツ構成ではあった。  しかし全体的な印象で言えばそれはあまりに太く短い。某国の軍高官に至っては縦向きに置かれた装甲車と言い切った程である。  あくまで人に喩えると言うのであれば、鎧を着込んだ横綱と言うのが妥当であろう。だが動きは俊敏だ。  突然降り注いだミサイルや砲弾を回避したのがその証拠である。 「今のは?」  慶樹は独言を洩らす。緊急回避で崩れた体勢を立て直しながら、レーダーや光学センサーからの情報に目を凝らした。  こちらの損害は友軍機が二機。自機への被弾は無し。発射されたミサイルの熱源を辿った先に、自分のと同じようなシルエットが三機見える。  こちらに向けられた銃口が火を吹き、周囲のアスファルトが砕け散る。  先程の砲撃を受けて動けなかった一機は、まともにその掃射を受けて大破した。  慶樹の機体だけは、三機の火線を上下前後左右の巧妙な動きで回避し距離を詰めた、一機目に投擲爆弾を握った腕を叩き付ける。  強力な爆発物を胴体に抉りこまされ、倒れた敵機は四散する。  その強力な閃光と爆音が過ぎ去った時には、残りの二機もすでに戦闘不能であった。  休む間も無く次の警報が鳴り、敵の接近を伝えた。 『距離三百! 数不明!』  残った三機の友軍機を引き連れ、慶樹は機体を敵に向かって真っ直ぐと進める。
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