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敵部隊は切り札を失い、奇襲も失敗した。撃破した戦車の上から見下す光景は、すでにこちらの勝利を確信させる物だった。
激しい風雨で目と耳を奪われた鋼の巨像に、降り注ぐ鉄と炎の嵐から逃れる手段はない。
最後の一両に目をつけた慶樹は大きく跳躍し、戦車の上に着地する。車内からリモコン操作で射撃をしていた自動てき弾銃がへし折れ、車体が大きく沈み込む。
器用にバランスを取った機体の左腕に外付けされた、12.7mm重機関銃が火を吹き、戦車のハッチを吹き飛す。巻き散らされた大量の破片が一秒に数百というフラッシュでオレンジ色に染まる。
車両内部に侵入し跳弾した弾が、戦車を完全にスクラップにするのには大した時間はかからない。
二回目のリロードを終える頃には、エンジンルームや別のハッチから煙りが上がっていた。
制圧完了の文字が目の前に浮かぶと、大した間もおかずに、全てのモニターや窓が明かりを失う。
イスや計器類の配置は元に戻りながらも、さっきとは違う動きもしていた、イスは少しづつ持ち上がり、周囲の壁が箱の展開図のように開き始める。
立あがり、展開した外箱に足を掛けて飛び下りた。
振り替えるとそこには、泥汚れもない跳弾した弾の後もない、アームも基部までしかない無骨な箱が、赤い非常灯のような淡い光が支配する空間で半身を埋めてている。
その淡い空間の出口の輪郭は外のキツイ光で浮き上がっている。慶樹は大きく溜め息を吐く。
この瞬間が最も嫌だ。そう毒づきながら扉を開ける。
まず耳に飛び込む軽いボーカルの安っぽいヒットソングと様々なゲームの音。
そうここは都内有数の大型ゲームセンターだ。
様々な喧騒から逃れるために、慶樹は店から出ようとした。にぎやかなのがダメな訳ではない苦手なのだと思う。
人が多く集まる場所はどうしても狭くなる。物理的にも心理的にも。
すると突然後ろから、拍手と共に威圧的な声が掛る。
「さすがは全国ランクNo.7の如月慶樹君、パンツァーヴェステを楽しんでるかね?」
「インタビューの類いは受けませんよ。こんなふざけたゲームで顔を売りたくないんでね」
いつもの調子で軽く否す。
「私は社会派気取りの記者ではない。単刀直入に言う、本当のパンツァーウ"ェステの戦場に興味はないか?」
そう言った男の顔は、紳士的でありながら、獲物を狙う獣の様な目が印象的だった。
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