序章2━政権戦線~preliminary skirmish~~

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 浅田要一(あさだ よういち)は汗まみれで執務室の机に置かれた電話をにらみ続けた。  押さえられた適度な豪華さを保つ内装を最も華麗に演出する調度品達。そんな部屋にまるで場違いな置物のように座る浅田は、ただてさえ神経質そうな顔を真っ青にしていた。 「内閣がようやく動きだしたというのに……山城会長の支持もとりつけたのに……」  呪文のように続く似たような呟きも、違和感の飾り程度の意味しか持たないぐらいに異常な光景だ。  もう九月も終わりだというのに差し込む日差しはまるで夏のように眩しい。  呪文とクーラーの音だけが支配する公邸の執務室に電子音が鳴り響く。  ディスプレーの名前を見る事もなく浅田は電話に飛び付いた。 「大統領はなんといっておられる!」  相手のスピーカーを壊しかねない大音量の甲高い声と気迫だった。もしこれがテレビ電話なら、電話口のアメリカ大使官の責任者は、驚きのあまり受話器を画面に投げ付けたであろう。 『申し訳ありません。総理。面談はおろか連絡すら取れないありさまでして……。』  その言葉を聞いて途端に浅田は足が無くなるような感覚に見回れた。  視界が大きく歪む。もう電話の声も聞こえない。 『……えますか、総理、総理。大使館の引き上げの通告がきています。ご指示を……総理』  切羽詰まった大使の悲痛な叫びで我に返った浅田は慌てて答える。 「わかった検討する。残りの報告は大臣に直接頼むよ」  強権を発動して報告を無理やりダイレクトラインにした事も忘れ、電話を外務省に繋ぐ。  大臣は手堅い所でまとめた、財界にも承諾を取った。内政は相変わらずだし、任期中は世界情勢も大きな動きはない。自分はこのまま任期を終え一番目立たない総理で終われる。そのはずだった。  西暦2013年9月23日アメリカ合衆国は極東の島国日本に突如宣戦布告をした。  期限は一ヵ月。その間に条件を飲まない場合は日本国の敵対行為と見なすという一方的な通告だ。
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