序章2━政権戦線~preliminary skirmish~~

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━━宣戦布告の五か月前  ほとんどクーデターと言われた米大統領交代劇がようやく世間から忘れられ、日本は珍しく遅い春を迎えていた。  その日、突然総理官邸からお呼びが掛かり、何事かと駆け付けた浅田の前に現れたのは、官邸執務室に異様な存在感を振りまく男であった。  男は立上り敬礼をする。目の前に立たれるとかなりの威圧感だ。  自分だって一応は国の防衛を担う省のトップである。普段はともかく視察や式典の時は現場の軍人達を直接見る事はいくらでもある。  しかし彼らとは絶対に違う異質ななにかが、この男からは見え隠れしていた。 「防衛省情報局別室の阿久津正輝一佐と申します」 「ああ、よろしく。」  先程から気圧されて居るという自覚のせいか、相手が防衛省の人間だと知り、ついつい横柄な態度で接してしまっていた。  しかし、阿久津と名乗る男はそんな事を気にせずにいきなり本題から切り出した。 「防衛技術本部と来月就航予定のLST-4005『つちうら』をドックごと、当然搭載予定のLCACの9号艇と10号艇と共に指揮下に収める。あと陸自の戦力も少しつけていただきたい」  あまりに突拍子もない要請に驚く以上に怒りが沸いた。情報局は一応重要な部署だ。有事の時にはそれなりの戦力を下につける事もいままでに幾度となくあった。  しかしまだなにも起きていないのだ。さらに技術本部と就航前の艦、それらが示すの物は簡単だ。 「なにをする気だ?」 「この国に必要な物以外になにを造ると」  そう言った時のヤツの顔は多分一生忘れる事はできないだろう。
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