第一章 能力-Synesthesia-

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 俺には他人に言えない秘密の能力が備わっているらしい。それは先天性らしく、物心が付いた時からだ。  当然、それは俺だけに与えられた能力だと知らずにいたので、母親に「どうしてあの人の顔は緑色なの?」とか、「さっきの2人から同じ匂いがしたね」とか言って、困らせていたらしい。  そんなことを言うたびに母親があまりにも困った顔をするので、いつしか『これは他人には言ってはいけないことなのだ』と悟るに至った。  俺は他人の── 人間だけではなく、犬猫など他の動物や植物に至るまで。生きとし生ける者の気持ちや感情を、色や匂いで感知することができる。  幼い頃は目に映る全て、吸い込む空気の全てにそれを感じてしまっていたが。いつしか俺が知りたい物だけを感知できるようにコントロールができるようになっていた。  でも俺はこの能力を誰にも話さずに。しかも、あまり能力によってメリットを得ることのないように暮らして来たつもりだ。とは言え危険を回避したり、相手のご機嫌を取ったりなどには惜しみなく使用している。  要は「能力者ですよ」と公表して金儲けの道具に使ったりはしない。と言う意味だ。  最初はその色が、その匂いが。どんな感情を意味しているのか理解ができなかった。しかし授業を聞くことで教科書の内容を理解するように。俺は自身の経験でその意味を理解して来た。  お陰で今は、どんな動物ともだいたいの会話はできるし、どうしたら野菜が大きく美味しく育つのかもわかる。  ただし厄介なのはだ。思考と呼ばれる「裏の感情」を持ち、理性と名付けられた「自己防衛」をする。簡単に「あなたは今、本当はこんなことを考えていますね」とは言えないのが常だ。  せめて使う場面を考えると言う前提で、もっと直球で感情をぶつけ合う機会があってもいいのではないか。と、いつも思ってしまう。
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