物語は語り続けられる

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「旦那様、お客様が旦那様に用があると言って訪問しに来たのですが…」 優雅に紅茶を飲んでいると雇っている執事の一人がやってきた。 俺に客? 変だな、晃がメインでシルエッカ家を支えているから客なんて九割晃に用があるもんだと思うんだが。 「その…大変申し上げにくいのですが、ED治療でもしとく?、という言伝を頂いてまして」 は? 「……あー、アイツか。ここに連れてきていいぞ」 こんなアホな事を言うのはアイツしかいない。 待つ事数分、訪問者の姿が見えた。 「やあ、桜姫クン。隠居生活はどうかな?w」 「普通に用があると言えばいいだろ…なんだよED治療って」 訪問者の正体はこの世界を管理する神のハルティア。 名も無き神に誘導され、操られていた被害者の一神。 ガターンッ!と無作法に座るハルティアを見ながら連れてきた執事を下がらせる。 コイツもまだ何処かで無理をしている…そんな気がする。 「…ごめんね、アタシのせいで」 執事の姿が見えなくなるとハルティアはしおらしくなり頭を下げた。 何度目の謝罪なのかもう覚えていない。 「お前も同じ側だろ。何度も言わせるな」 そう、ハルティアも俺と同じ名も無き神の被害者でしかない。 だからハルティアが俺に謝る必要なんて何処にも無いのだが、会う度にハルティアは頭を下げてくる。 「ねえ、本当に出ていくの?」 出ていく、とはこの世界からという事だろう。 「ああ。どこぞの仕事バカ老人が圧をかけてくるもんでな」 モゲッソとかいうあの爺さん、俺の存在を気にかけているのか語神になってから毎日連絡してくるようになった。 自分の世界を創れと無限に言ってくる。 初めに相談したのは俺なんだがここまで毎日言われると少し止めたくなる。 実際の所、早いところ世界を作って平行世界の住人を連れて行かなければいけない。 シーク自身何も言わず待っているが、いつ世界を創るのか気が気でないはずだ。 「出ていかなくてもいいと思うんだけど…」 「そうもいかない。向こう側の奴らを解放してやらないといけないからな」 「それこそこの世界でも良くない?」 ハルティアはどうにかしてでも俺をこの世界に置いておきたいらしい。 何故なのかはさっぱりわからないが、妙に必死だ。 「世界に同じ人間が二人も居たら大変な事になるだろ?だからそれはダメだ」 人類が変に増えると無駄な争いに発展しかねないからな。 それを未然に防ぐ為にも別の世界を作って解放しなければいけない。 「で、でも!」 「…どうしたんだお前。何故そうも必死に俺を引き止めようとする?」 引き止めた所で世界のリソースはもう増えない。 俺の力はもう無いモノを十全に扱える力ではなくなったのだから。 「…うう」 ティアの様子が明らかにおかしい。 こんなにもしおらしくなるなんて初めて見た。 「あのね桜姫クン…昔居た家政婦さん覚えてる?」 「あ?……ああ、地球に居た頃の話か。たまに来てた家事代行サービスの人のことだよな」 俺に生きる術を教えてくれた人だ。 「あれね、アタシなの」 「……はい?」 何故今になってそんな事を告げるんだ? 「アタシが何故あの名も無き神が連れてきた桜姫クンをこの世界に来る事を受け入れたか、理由はもうわかるでしょ?」 「……」 「アタシも桜姫クンをずっと見てきたんだよ。アタシにとっても桜姫クンは大事な子供なの」 今更遅すぎる。 そんな事を思いながらハルティアを見る。 「子供が離れていく事がこんなにも寂しいなんてね…知らなかったよ…」 「ティア…」 だからコイツは俺を引き止めようとしてたのか。 「でも、操られてたとはいえ子供を殺そうとしてたし無理もないね…ははは…」 「その事は気にしていない。離れる事は前々から考えていた事だしな」 それに、 「別に二度と会えない訳じゃない。新しく創る世界が安定したらまた顔を出すさ」 モゲッソ曰く世界の安定化は長期でかかるらしいが、それはハルティア自身もわかっているだろう。一応現役の管理神だしな。 「あ、アタシも手伝うよ?」 「ダメだ。あのジジイが一人でやれってうるさいからな」 機巧神だった頃の仕事を全て他に投げてたから厳しいんだろうなって思う。 知らなかったとはいえ、俺が悪い。 わからん所はジジイがその都度教えてくれるらしいから少しは安心だろうか? 「…今度あのじーさんの髪抜いてやる」 「やめたげて…」 本人ちょっと薄いの気にしてるから…。
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