物語は語り続けられる

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「…はぁ。それで?いつ創るの?」 ハルティアは観念したのかぶっきらぼうに肘をつき、そして問う。 「この後かな」 「こ、この後ぉ!?」 「ああ。ティアと話してて決心がついた」 「しかもアタシが原因!?」 「原因じゃないさ、背中を押してくれて感謝だ」 創るなら早い方がいいよな。 「みんな出掛けてるよねぇ!?」 「…何か問題でもあるのか?」 「キミの家族でしょ?!何か一言とかさ!」 「あー…」 忘れてた。 しばらく俺は世界の安定化の為に一人で作業する事になる。 それがどれだけの月日が必要なのかわからない。 だからこそ身内に何かしらの言葉が必要なのだが、俺とした事がその事をすっかり忘れていた。 「その顔、忘れてたというより気まずいだけだよね」 「…まあ、な」 今更俺はどんな顔をしてアイツらと話せばいいのか全くわからない。 ハル達はこんな俺でも愛してくれているらしいのだが、俺自身が何もわからなくなっている。 あの時は嬉しいとか様々な感情が渦巻いていた筈なのだが、時が経った今の俺には感情というものが何なのかわからなくなりつつある。 恐らく、名も無き神が作り上げていた鏡谷桜姫という物語が途切れてしまった影響なのだろう。 そこまで与えられていた感情が名も無き神が消えた事により消えてしまったのだ。 あくまで今の俺はでしかない。 それ以上もそれ以下でもないタダの語り部だ。 それが語神である俺。 「でもまあ、ナギサちゃんは確実に連れて行けないからね?一応この世界の守護竜だから」 「わかっている。ナギサも内心諦めている様子だしな」 「他の子達もキミの世界が完成して安定しないと手続きすらできない。それは理解してね」 「ああ。ってもその説明すらしてないんだけどな」 「アホガキィ!!」 1tと書かれたクソデカハンマーで殴られた。 とても痛い。 「何もかも足りてないじゃん!今の桜姫クンがどうなってるかなんて理解していたけど要介護者だね本当に!」 「誰がジジイだ」 「お前じゃい!なんなら老人より酷い状態だと思うけど!?」 いやあ、今日のハルティアは騒がしいなぁ。 「ま、これが人形の末路なのかもな」 俺が形を保っているだけで奇跡なのかもしれない。 「末路、ね…。確かにキミは語神という座のおかげで存在できているくらいには不安定な存在だけどさ…」 だから語神という神の座から降ろされたら俺は確実に存在が維持できなくなって消えます。 うん、マジで。それだけはわかる。 「キミがあの子らの記憶を上書きしないだけマシか…」 「できなくはないが…それをすると本当に俺の心が折れる」 「それはそれであの子らを苦しめる事になるよ?」 「……ああ」 俺はまた彼女らを待たせなきゃいけなくなる。 今度も何年何万年待たせる事になるのかわからない。 「既にあの子らは人の域を超え、精神も人に似ているだけのバケモノになっている。アタシの世界だから受け入れれるようになっているけど、普通はこんな温かく受け入れてくれないからね?」 「感謝しているよ、本当に」 「桜姫クンはあの子らの面倒を最後までちゃんと見なくちゃいけない。バケモノにしたのはキミ自身なんだから」 わかっているよ。 既に悠久の時を過ごしているアイツらにもいつか終わりを語らなければいけない。 アイツらが望めば、の話だが。 「モゲッソにも後で伝えといてあげるからお別れの言葉くらいはしっかりキミの口で語りなさい」 「わかったよ。なら世界創世は明日にする」 「今日中にちゃんと語れるならいいよ」 ハルティアもすっかり俺の保護者だな…。 …その保護者ムーブも名も無き神の誘導の結果なんだろうけど、それはある意味感謝しなければいけないのかもしれない。 アイツの意図しなかった残り物に俺は縋っている節がある。 今もハルティアの優しさに縋っているのだから。
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